夕方、剱に美しい笠雲がかかった。夜になって風が急に強くなり雷が鳴りだし、テントをたたく音は雨ではなくあられ混じりの雪だった。まだ9月半ばすぎなのに……。深夜、テントが壊され、石垣の積まれた祠(ほこら)の中へ避難を余儀なくされた。
こんなところで遭難騒ぎでも起こしたら、周り中から笑いものにされる。考えもしなかった悲惨な現実。必死の思いでカメラをセットし、暗闇の剱に向けてバルブ撮影した。
フィルムを現像したら、ほぼ真上に北極星が写っていた。明け方近くになって風もやみ、後立山の空が朝焼け色に染まってきた時は、救われたと思った。」。